私がHACKSTOCKをつくった理由

去年の暮れに、知り合いの会社でこんな話を聞きました。全社員にAIのアカウントを配ったのに、半年経って実際に使われていたのは翻訳と誤字チェックだけだった。「まあ、そんなものですよ」と彼は笑っていて、私も一緒に笑ったのですが、帰りの電車ではずっとそのことを考えていました。

SNSを開けば、AIで業務をまるごと自動化した話がいくらでも流れてきます。それを読んでいるときの感覚と、あの会社で聞いた話との距離が、どうしても埋まりません。しかも私の周りで言えば、後者のほうがずっと多数派です。

私も毎日、AIに調べものを頼み、文章を直してもらい、資料の画像をつくってもらっています。十分助かっています。そのうえで、AIには、毎日繰り返している仕事の進め方そのものを変えられる良さがあると思っています。そこまで使っている人は、私の周りではまだ一部に限られています。ずっともったいないと感じていました。

もっと多くの人が仕事にAIを取り入れられたら、働き方も、日本経済の先行きも、いまより少し良くなるのではないか。大げさに聞こえるかもしれませんが、私はそう考えています。

コードが書けないまま、つくれるようになった

私はエンジニアではありません。ずっとマーケティングや事業開発、企画やリサーチの仕事をしてきて、コードは書けないままです。

仕事をしていると、「この手順、毎回人がやる意味があるのだろうか」と思う場面が何度もあります。以前はそこで止まっていました。つくれる人に頼むしかなく、頼むには要件を整理しなければならず、整理しているうちに別の締切が来て、結局そのままになる。これを何年も繰り返してきました。

AIを使い始めて、思いついたものを自分で試せるようになりました。最初につくったのは、競合各社のリリース情報を毎朝集めて、前日からの差分だけを並べてくれる仕組みです。それまでは出社してすぐ10社ぶんのサイトを順番に開いて、何も出ていなければそれで終わり、という15分を毎朝使っていました。今思えば、よく毎朝続けていたと思います。仕組み自体は大したものではありませんし、途中で二回ほど動かなくなって直しました。それでも、あの15分が戻ってきた朝のことは覚えています。

つくってみて、その仕事を知っていることが、こんなに役に立つのかと思いました。どこで時間がかかるのか。毎回同じ手順はどこまでで、どこから人の判断が要るのか。毎日やっている本人なら説明できることが、仕組みをつくるための材料になりました。ツールに詳しくなくても、まず自分の仕事についてAIに伝えるところから始められたのです。

試す時間や、相談できる人がいない

気になるのは、AIを試せる環境の差です。試す時間があり、近くに詳しい人がいて、失敗しても怒られない。そういう職場なら、仕事に取り入れるまで何度も試せます。そこで時間が空けば、次の工夫にも手をつけられるでしょう。でも、その余裕がない人はどうすればいいのか。

私の周りにも、関心はあるけれど自分の仕事のどこに使えばいいか分からない、という人がたくさんいます。私は、これを能力の差で片づけるのは違うと思います。AIの記事を読むことと、自分の仕事に合う使い方に出会うことは、まったく別の作業ですから。

成功事例を読んでも、必要な準備や作業の順番、つまずいた箇所まで分かる記事はなかなかありません。結局、自分でもう一度調べ直すことになる。そこで力尽きる人を、何人も見てきました。

社内ルールや情報管理、コストといった壁もあり、それは記事を読んだだけでは越えられません。先に試した人の手順や失敗した経験が残っていれば、少なくとも自分で調べ直す負担は減らせるはずです。

誰かがすでに見つけた方法を、なぜ別の誰かがまたゼロから探しているのだろう。

この引っかかりが、HACKSTOCKの出発点です。

「AIワークハック」と呼んでいるもの

HACKSTOCKでは、こうした工夫を「AIワークハック」と呼んでいます。誰かが自分の仕事の中で編み出した、AIを使った具体的な仕組みややり方のことです。

商談メモを渡すと、顧客の課題と次の約束が整理されて、フォローメールの下書きまで出てくる。会議の録音から決定事項と担当者と期限だけを抜き出して、タスク一覧にする。毎週の広告データは決まったルールで集計させ、数値の変化を説明する文章の下書きだけをAIに書かせて、人は数字と中身の確認に時間を使う。このくらいの規模で十分です。立派なアプリでなくてもいい。複数のツールをつないだだけのものでも、何を入れて何を確認するかを決めた手順書でもかまいません。

他の人に渡すには、「このAIが便利です」の先を書く必要があります。どの工程を任せて、どこから人が引き取るのか。出てきたものの何を見るのか。そして、どういう仕事には使わないほうがいいのか。

その仕事を知っている人が、どこをAIに任せ、何を確かめているか。 HACKSTOCKで共有したいのは、そこまで含めた使い方です。

その工夫に、値段がついていい

自分のためにつくったものが、他の誰かの役にも立つ。だったら、つくった本人にお金が返る仕組みがあっていいはずです。私はそう思いました。

経理の担当者が何度も失敗しながらつくった仕組みを、別の会社の経理担当者が取り入れる。使う側は、調べて、つくって、やり直す手間を減らせる。つくった側は、その失敗の積み上げと仕事の経験に値段がつく。

会社員の副業としても、こういう形があっていいと思っています。普段の仕事で磨いた工夫を、何人にも使ってもらえる資料や仕組みにする。そのたびに一から仕事を請け負う以外の方法で、自分の経験を役立てられます。

出せば売れるという意味ではありません。動く状態を保つための手入れも、買った人からの質問への対応も必要です。これが地味に手間がかかります。その手間に見合う収入が得られて、自分の経験が勤め先の外でも役に立つと分かる。そうなってほしいと思っています。

エンジニア以外にも参加してほしいと思っています。営業でも人事でも総務でも、その仕事を毎日やっている人にしか出てこない工夫があります。HACKSTOCKでは、そういう人を「ワークハッカー」と呼びます。自分の仕事をAIで少しラクにして、その方法を他の人にも渡す人、という意味です。

会社の機密や顧客の情報を持ち出して売る場所にはしません。公開していい内容かを確認し、必要な許可を取り、その上で他の人が使える形に整える。面倒でもここは省きません。運営として、いちばん神経を使うところだと考えています。

善意だけに頼りたくなかった

HACKSTOCKは、このAIワークハックをシェアしたり売ったりできるマーケットプレイスです。構想からずいぶん時間がかかりましたが、ようやく人に使ってもらえる形で公開できました。

困っている人は「どの仕事をラクにしたいか」から探す。ワークハッカーは、自分が使っている工夫を他の人が使える形にして登録する。無料で共有してもいいし、値段をつけてもいい。買った人が払ったお金は、つくった人に返ります。

共有を善意だけに頼りたくなかった。 有料でも出せるようにしたのは、そのためです。手順をまとめ、質問に答え、動く状態を保つには時間がかかります。「役に立ちました」はうれしい。でも、忙しい日が続けば更新は後回しになるでしょう。収入が得られることで、続ける理由が一つ増えてほしいと思いました。

探しても見つからないときは、「この仕事をAIでラクにしたい」と依頼もできるようにしています。扱うのは、AIを使った仕事の工夫に限ります。一般的な外注の依頼を何でも受ける場所にはしません。

「みんなの資産に」と言っても、つくった人の権利を手放してもらうつもりはありません。権利を守り、収入にもつながる形で、必要な人に届けたい。仕組みはまだ手探りです。公開してからも直していくことになると思います。

30分の話

収入の話とは別に、仕事に使う時間のことも考えています。

毎日やっている作業が30分減ったとします。一人の30分でも十分ありがたいのですが、その変化が職種をまたいで、会社をまたいで広がったらどうなるか。顧客と話す時間や、商品を良くするために考える余裕ができる。学び直したり、新しい事業を始めたりする人もいるでしょう。

空いた分だけ別の仕事を詰め込むなら、忙しさは変わりません。生まれた時間を何に使えるかまで考えたいところです。

AIの導入だけで経済が良くなるとは思いません。それでも、日々の仕事を見直す人が増え、良い方法が他の職場にも広がっていけば、日本の生産性にもつながると私は考えています。自分で仕組みをつくれなくても、誰かの工夫を取り入れるところから参加できるようにしたいのです。

二本目から先は、あなたの記事です

「この仕事、AIでもっとラクにできないだろうか」と思ったら、HACKSTOCKで探してみる。使ううちにもっと良い方法に気づいたら、自分も出してみる。最初は使うだけだった人が、出す側にも回れる場所に育てたいと思っています。

この記事は、その一本目です。二本目から先は、それぞれの仕事を知っている人に書いてもらう場所にしたいと思っています。

うまく書こうとしなくてかまいません。 どの工程を任せたのか、どこでつまずいたのか、どういう仕事には向かなかったのか。私も、途中で二回動かなくなった仕組みの話を書きました。失敗したところまで分かると、次に試す人は助かります。

まずは、自分が「これは面倒だな」と思っている仕事の名前で探してみてください。合うものが見つからなければ、自分で試した工夫をここに載せてもらえたらうれしいです。


一人のAIワークハックを、みんなの資産に。

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